「あずさくん、久しぶり」
森というのはなんとなく気がひける雑木林の中、その少女は立っていた。真っ白なワンピースに同じく真っ白なカーディガンを羽織り、右手には水筒、左手には一冊の文庫本を持って、少女は立っていた。
声をかけられた少年はというと、紺と白とピンクのボーダー柄のポロシャツに、黒の細身のズボンをはき、手ぶらで雑木林の入り口に立っていた。
「え、えと」
「覚えてない? 奈月(なつき)だよ」
少年が返事に困っていると、少女は微笑み手招きした。
「奈月……、あ、ああ!なっちゃん!」
「そう。ふふ、久しぶりだね、あずさくん。今、えっと」
「高1高1。なんとか高校生なれたよ」
「そっか、おめでとう」
切り倒されたのか、はたまた自然と倒れたのか、太い木の幹に座る少女の隣に少年も腰を下ろす。木々の間を走っていく風が気持ちよく、目を閉じた。
そんな少年を見て、少女は自身の頬がゆるむのを感じた。私、喜んでる? 久しぶりにあずさくんに会えて、喜んでる?
「なっちゃん」
「なぁに?」
お姉さんぶった返事をして、二人で笑い合う。幼い頃に戻ったようだ。
「俺、なっちゃんに会えて、嬉しい」
「ふふ。私もあずくんに会えて、嬉しい」
お互いにあだ名で呼び合えば、懐かしいの一言では尽きない感情が胸にあふれる。
じっと目を合わせ、沈黙を続けた。高い位置で葉っぱのこすれる音がする。
それしかない。
それしかなかった。
「なっちゃん」
先に沈黙を破ったのは少年。
先に体を動かしたのは少女。
先に相手の肩をつかんだのは少年。
先に目を閉じたのは少女。
先に唇を重ねたのは、
きのうのあした、あしたのきのう
(同じ日をもう一度過ごせるのなら、)