きのうのあした、あしたのきのう(2)

 さわさわと葉がこすれる音が響く小さな雑木林の中、少年と少女は倒れた木の幹に並んで腰掛け、会話らしい会話もないまま互いの時間を共有していた。
 少女は本を読む。
 少年は絵を描く。
「なっちゃん」
「なぁに」
 顔を上げ、少年を見る。目が合う。優しく笑いかける。用がないのは分かっているので先を促したりはしない。ただ黙って、少年の肩に頭を乗せた。しおりを挟んで本を閉じる。
「あずくんは、」
 言葉を切り、少女はゆっくりとまばたきをした。まぶたを下げて上げる。それだけの動作なのに、こんなにも億劫に感じるのはなぜ?
 手に持っていた本を強く握ったらブックカバーがくしゃりとしわになった。
「知ってるの?」
「なにを?」
 目を合わさずに会話をすることの不自然さ。覗きこまない。覗きこめない。
 少年は鉛筆を持ったまま少女の肩をつかむ。肉づきの悪い、痩せた身体。体温はない。冷えている。そういうわけじゃない。血が。
 遠くで鳥が鳴いた。少年の問いに少女は答えない。なにを、だなんて、わかってるくせに。
「お別れが近いよ」
 少女の言葉に少年は目をつぶる。肩が、腕が、手のひらが感じる少女に関する記憶をすべて忘れたくないと願う。
「あずくんが好き。ずっと、好き」
「なっちゃん」
「だけどあずくんは私以外も好きになって。私に悪いとか、そういうの関係ないよ」
「なっちゃん」
「ふじ、あずさくん。私にとっては唯一だけど、あずくんにとって私は記憶の一部でいいから」
「なっちゃん、」
「ごめんね。ありがとう。大好きだよ」
「なっちゃん!」
 泣きそうな顔はどっちだろう。