写真の中の少女が笑っている。とびきりの笑顔だと少年は思った。自分と一緒にいるとき、少女はこういう顔をしていたのだろうかと頭をひねる。
「なっちゃん」
畳の香り。風鈴の音。開けられた窓からそよそよと入る風。真夏の太陽は地上の水分を蒸発させようと躍起になっている。
だというのに暑さを感じないのはなぜだろう。少女の母親が出してくれた麦茶は氷が溶けて薄くなっていた。
「どうして」
そんなの、今更嘆いたって仕方のないことなのに。
写真に手を伸ばす。触れたって何も変わらない。
届いても、届かない。
「なっちゃん」
のどが、目が、鼻が、胸が熱い。痛い。こみ上げてくる。言葉にできない。嗚咽がこぼれる。涙としてあふれる。
もっと、を願った。明日、を願った。このまま、を祈った。
そんなこと、あるはずがないのに。
「なっちゃん、なっちゃん」
何を言いたかったのだろう。何をしたかったのだろう。何を伝えたかったのだろう。何を、何を。
仏壇の上の少女の写真に手を伸ばす。腰を浮かす。はずみで、床に置いてあったコップを倒した。
麦茶が畳に染み込む。じわじわと、茶色が広がる。
「僕も、連れてってくれればよかったのに」
未来なんて望まなかった。少女のいない世界なんて必要がなかった。遠く離れていても、いつだってそばにいる気がした。
思い込みだった? 独りよがりだった?
「なっちゃん」
ぼたぼたと、新たにしみができる。写真を抱きかかえても、体温なんて感じられるはずもないのに、
「好きだよ。大好きだよ」
温かく思ったのは、なんだったのだろう。